2009.10.18

〈学習障害)というラベルを乗り越えて

 ヒップホップ系の格好をして、はじめてお母さんに連れてこられたC君は、先生に対する不信感からか、私たちに対しても鋭い視線を向けていました。C君に対して短い挨拶を終えた後、私は、お母さんから今までのC君の経過について一通りの話を聞きました。彼は3人兄弟の真ん中で、上には3歳年上の姉と2歳年下の妹がいましたが、その2人の姉妹も学習障害であるということでした。C君は、小学校低学年のころから理解の遅れがありましたが、他の姉妹に比べると比較的軽いものであったという理由で、小学校では通常学級に所属していました。ところが、小学校高学年頃より理解の遅れが著しくなってくるようになり、中学校では特別支援学級に入ることを両親は勧めたのですが、C君は「あんなアホ学級いやや」とどうしても納得しなかったということでした。
 
 私は、C君に今まで不登校を乗り越えてがんばってきた先輩たちの話をしました。
「A君は、中学になってから1ヶ月しか学校へいってなくて、そのあとずっと家にばかりいてたんや。アウラに来た時は、勉強もすっかりできなくなっていたので、小学校からもう一度やり直した。そうしたら、どんどん力がついてきて少しずつ自信が持てるようになってきたんや。B君なんかは、もっと大変で、小学校2年までしか、まともに学校には行ってなかった。彼は小3ぐらいからのやり直しをしたんや。そして半年で小学校を復習して、今、中1のことを勉強しているんや。」
C君の表情が少し和らいできたことを、私は感じ取りながら話を続けました。
「だから、C君もアウラで、もう一回学びなおしをしたらどうや。勉強のことは、心配しなくてもいい。キミがわかるところから、やり直そう。ここでは、みんなそんな風に勉強するんや。」
そして、私はC君にアウラで学ぶ意志を尋ねました。
「俺、学校でいる場所がないんや。だからもう学校へ行きたくないし、ここで勉強してみようと思う。」
こうしてC君は、晴れてアウラの一員となりました。大変生真面目なところがあるC君は、それから一日も休むことなくアウラで学び続けることになっていきました。

 C君の学習は、彼が最も苦手とする数学を中心に始まりました。九九はおろか、繰り上がりや繰り下がりの加減も不確かな状態でした。C君は、小学校1年生の中頃からの内容を学習しなおし始めました。アウラでは、どんなに学力的に厳しい子どもであっても自律的に学習をします。実はここに大きなポイントがあって、自分でできるようになったという事実が子ども自身の自信を育てるのです。C君もその例外ではありませんでした。加減は短期間にマスターし、いよいよ九九に入りました。しかし、これがどうしても覚えられません。私たちは九九を覚えさせることを断念し、それに替えて九九の表を彼のファイルに貼り付け、それを使って素早く答を見つけることを薦めました。そして、この表が使いすぎでボロボロになる頃には、彼は九九を完全にマスターしていました。これには養護学校教員のお母さんも大変驚かれていました。

ある日、C君は私に対して、こんなことを言ったことがあります。
「俺、どうせアホやし、高校にも行けへん。仕事だって、まともな仕事には就けへん。まあ、せいぜい毎日パチンコで稼ぐぐらいや。」
  少し、勉強に行き詰まりを感じていたC君は、時々そんな風に弱気になる時がありました。私は、彼の口から出た言葉を打ち消すように言いました。
「俺がキミを高校へ入れる。どんなに時間がかかろうが、それは約束や。だからもう一度、最初からやり直すんや。」
 学習に行き詰まったらまた戻る。時間がかかっても、私はC君にそれを徹底して指示しました。

 C君が九九をマスターした頃、私たちは別のところで彼の変化を感じ取っていました。彼が通学に使っていた自転車です。最初はまるで暴走族のバイクのような自転車でしたが、ハンドルが元に戻り、ライトが元に戻り、サドルが元に戻って、すっかりママチャリになっていました。それだけではありません。ピアスが取れ、髪の毛の色が黒くなり、服装が子どもらしくなっていきました。そして、そんな変化が見られた頃に、私たちは彼に比較的得意な国語の学習をスタートさせたのです。すると、B君は水を得た魚のように国語に取り組んでくれました。そしてその学習も定着した頃、私たちは他の教科の学習を次々と提案していきました。

 中学2年生になった頃、C君は突然私にこんな話をしてきました。
「俺、車の整備士になりたいと思うんやけど、あれって試験があるらしいんや。先生、俺でも受かるやろか。」
 私は、正直嬉しい思いで一杯でした。私に初めて会った頃はまるで人生をあきらめていたようなC君が、自分の将来を模索しようとしているのです。
「キミは去年、繰り上がりや繰り下がりの計算もできなかったのに、今では中学の数学を学習している。このことがキミの質問に対する僕たちの答えや。」
 C君はその後、受験を経て高校に進学しました。そして整備士になるためにがんばっています。つい最近も、無遅刻無欠席でがんばっているとの報告が高校の先生から入ったばかりです。

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コメント

先日(と言ってもだいぶ前になりますが),見学に寄せていただいた竹内です。初めて投稿します。
この記事を読ませていただいて,このように力を伸ばしていける子どもたちの居場所が今の学校の中にないのは何故なんだろうと考えさせられました。今の学校のシステムのどこかに,何らかの問題があると捉えなくてはならないように感じます。それとともに,「学習障害」という診断が,その当事者への本当の意味での支援につながらず,ラベルを貼っただけで,かえってスティグマになりかねない問題をはらんでいるとも感じました。
見学に伺ったときもそうでしたが,考えなくてはならない課題をいただいたように感じています。


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