2010.01.17
行政の仕事
今回は、私がかかわっている行政の仕事について少しご紹介します。
以下の文章は、早稲田大学で教育社会学を教えている菊池栄治教授に提出したものですが、読んでいただくと、私と行政とのかかわりがわかると思います。少し長いですが読んでみてください。
不登校・初期型ひきこもり対策プロジェクト ―京都府における官民連携の試み-
1)はじめに
京都府は、不登校、初期型ひきこもり対策として、2005年度から行政と民間の連携による独自の事業を推進してきた。その事業の一つは京都府教育委員会による〈フリースクール連携推進事業〉であり、他方は京都府府民生活部青少年課による〈初期型ひきこもり訪問応援地域事業「チーム絆」〉である。筆者は、2005年当初よりその双方の事業に当事者として直接関与してきた。今回のレポートにおいては、これら二つの事業の概要と活動の推移、さらに社会的な意義について筆者の視点から論じていくものとする。
2)〈フリースクール連携推進事業〉-京都府教育委員会-(2005~)
京都府教育委員会による〈フリースクール連携推進事業〉は、次の二点を主旨とする事業である。まず一点目は、「不登校児童生徒の学校復帰や社会的自立を目指す取組」である。これは、民間施設と学校、あるいは市町村教育委員会、教育局が、不登校児童生徒の状況を共有化するとともに、様々な立場から支援していこうとするものである。具体的には、(1)「不登校児童生徒及び保護者への効果的な支援」、(2)「不登校児童生徒を支援する学習、体験活動のプログラム」、(3)「学校等との連携」の三項目からなっている。そして二点目は、「学習評価等に関する協働システム構築の取組」である。この主旨は、不登校児童生徒の〈評価〉という観点にまで踏み込んだものとしては実に画期的なものであり、しかもこの取り組みを民間施設がイニシアティブを持つ会議を通しておこなわれてきたという事実は、他に例を見ないものである。
実は、この〈フリースクール連携推進事業〉は、2008年からスタートした。2005年から2007年までは、その名称を〈民間施設連携支援実践調査研究委託事業〉としており、その中には、二点目の〈評価〉に関する主旨は含まれていなかった。この点が追加されるようになった背景には、筆者自身が地元の地域の学校、市教育委員会、教育局と3年間にわたり計10回の〈評価実現に向けた〉会議を先行して実施してきたことがある。筆者は、まず市教委、教育局、学校管理職の中から共通認識が得られる人材とコアのチームを結成し、その中で戦略を練りながら、まずは〈出席認定に関するシステム〉を成立させ、その後、〈評価実現〉に向けた段階的な話し合いへと3年をかけて会議を進行していった。そしてこの地域的な取り組みを背景として、府教委は全国に先駆け〈フリースクール認定制度〉(2008)を立ち上げ、府内のガイドラインを満たした民間施設を府教委の認定校と認め、同時に事業の名称を〈フリースクール連携推進事業〉と改めたのである。
しかし、筆者の地域における〈評価実現〉にむけた取り組みは、2009年以降、停滞することになる。その原因として、当初コアのチームを結成していた人材が、ほぼ同時に移動や定年によって抜けてしまったことがあげられる。また、校長会の人事にも移動があり、権力をもった会長が就任したことで、会議の進行が危ぶまれることになっていった。筆者としては、これ以上この地域での〈評価実現〉に向けた取り組みを続けることは難しいと判断し、今は在校生のいる他の地域(京都市、向日市、井出町)との話し合いを、府教委を巻き込む形で進行している。
3)〈初期型ひきこもり訪問応援地域事業「チーム絆」〉-京都府府民生活部青少年課-(2008~)
京都府府民生活部青少年課から筆者のもとへと参加要請があったのは、2009年のことである。青少年課は、〈初期型ひきこもり訪問応援地域事業「チーム絆」〉というひきこもりに悩む青少年およびその家族を支援する事業を2008年から実施していた。その事業は概ね、相談、訪問、職場体験(職親制度)に大別されるが、この事業の最大の特徴は、京都府が元々持っていたひきこもり支援のサービスと民間施設のサービスをリンクさせ、個々のひきこもりケースに応じて適当とされるサービスを紹介しようというものである。
筆者は、2009年より〈初期型ひきこもり訪問応援地域事業「チーム絆」〉の〈地域チーム〉という形でこの事業に参加した。元々府教委の事業を継続していたこともあり、筆者は教育行政機関や学校とのつながりをもっており、〈教育〉と〈ひきこもり対策事業〉つなげていきたいという意図があった。具体的には、義務教育を離れた〈高校中退者〉に焦点を当て、「たとえ高校を辞めてもどこかにつながりを持ちながら、社会的自立を目指せるようなソーシャル・セーフティー・ネットワーク(SSN)を作りあげること」をその目標において取り組み始めた。筆者の地域にある3つの高校、教育局、市教委、広域振興局、大学をネットワークでつなぎ、本庁内では、青少年課と府教委高校教育課のパイプを作り上げた。そしてさらには、府教委の事業との連動も視野に入れたSSNへと発展していくことを期待している。
4)官民連携プロジェクトの社会的意義について
不登校やひきこもりに悩む当事者や家族にとって、〈不登校〉と〈ひきこもり〉は、決して分離された概念ではない。あるいは〈小中学校〉と〈高校・大学〉も切り離されているわけではない。ところが、行政の視点では、それらは互いに別の概念であり、担当部署にも違いがある。この視点の違いを小さくしていかないと、本質的な支援が成立することはないと筆者は考えている。そしてこれを行政だけが実行することは至難のことである。なぜなら、行政を組織として成立させているのは、〈管理〉という概念であるからだ。〈不登校〉や〈ひきこもり〉は、いわば〈管理〉の概念からはみ出た存在であり、彼らを〈管理〉の元で支援することがうまく機能しないのは、当然のことなのである。
そういった意味では、官民連携プロジェクトの持つ社会的意義は大きい。民間施設と行政の持つ視点には、基本的に違いがあるからだ。それぞれの視点を交差させながら、地域の状況に根ざした〈社会的連帯〉を構成していくことこそ、この官民連携プロジェクトの意義である。
筆者は、〈不登校〉や〈ひきこもり〉を構造的な問題としてとらえている。したがって、それらをなくそうとする動きに違和感を覚える。なくすことはできないと考えるからだ。しかし、一旦〈不登校〉や〈ひきこもり〉になっても、そこから様々な人とのかかわりを通して社会にもう一度復帰できるようなシステムを構成することは可能であると考える。今回の京都府の新しい試みが、その一例となることを心から期待している。
5)参考文献
・京都府教育委員会 「フリースクール連携事業説明会資料」 2007
・グローバル教育研究所 「フリースクール連携事業実施報告書」2005-2008
・京都府府民生活部青少年課 「初期型ひきこもり訪問応援チーム設置要綱」2008
・斉藤純一 「政治と複数性」岩波書店 2008
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