2010.02.03

〈受験〉と〈徒弟的関係〉

 2月に入り、高校入試や大学入試がスタートし始めました。アウラの教室では、いたるところで受験生たちが、赤本とストップウォッチを持ってそれぞれの志望校の過去問題をこなしています。問題を解いては自己採点し、できなかった問題は解説を読んで理解し、それを弱点ノートにまとめていく。この時期になると受験生たちは誰しもが、このような自律的な学習をおこなえるようになっています。学習を自分自身の課題として捉え、それを一つずつ克服していく。その課題は学習面だけではなく、精神面にも及びます。自分自身の精神的な癖や弱さと向き合いながら、自分そのものを変えていく。そんな変化をこの時期の子どもたちは経験することになるのです。

M子は大変頭の良い女の子でしたが、コツコツと取り組むことが大の苦手で、「めんどうだし、やりたくない」とすぐに文句を言っていました。そんな彼女が、自分の志望校を確定したのは、10月のことでした。彼女が選んだのはかなりの難関校で、受験に合格するには実力で突破する以外の方法はありませんでした。受験の日まで4ヶ月。M子は最難関校用の問題集に取り掛かることになりました。今まで学校の定期テストや実力テストでは、いつも満点近い点数をとっていた彼女ですが、この問題集ではほとんどが解けない問題ばかりです。M子は、半分泣きべそ状態で教師のもとへとやってきます。解けない問題は、解説を読んで理解するところから始めなくてはなりません。そしてそれをノートにまとめていく作業も必要となっていきます。最初は「こんなの、解けるわけがない」と文句を言っていましたが、「じゃあ、志望校を変えればどう?M子が選んだんだから、あなたさえ納得できれば、志望校変更もOKだと思うよ」という言葉に、彼女は言葉をなくしていました。それから数か月、M子はよく頑張りました。気性の強さが、彼女を最後まで支えたのかもしれません。自分ができない悔しさに、泣きながら問題に取り組んだ日もありました。でもM子はある種の達成感を感じるまでに成長していったように思います。あの〈わがまま娘〉は、すっかりいい子になっていました。そして彼女は、受験を実力で突破していきました。M子の中で、確実に何かが変わっていったのです。

M子のケースのように、受験には様々な〈ドラマ〉がついてきます。そして〈ドラマ〉は子どもたちの変容に支えられて成立していきます。だから、私たちは受験を否定しようとは思いません。変容には〈日々積み上げられていく経験〉と、〈きっかけ〉の両面が必要となるのです。そういった意味では、受験は、十分にその〈きっかけ〉となり得るイベントでもあるのです。

アウラの教室で受験を媒介とした様々な変容のドラマが繰り返されるこの時期、受験生ではない他の子どもたちにも変化が生じていきます。彼らもこの受験生たちの変容を身体で感じ取っているからです。「自分たちも来年は、こんな風にやっていくんだ」彼らにとって、受験生は将来の自分たちをイメージする大切な〈モデル〉となっているのです。ただ、彼らはその〈モデル〉をいつも注視しているのではありません。彼らの視界の中に、その〈モデル〉は存在しているのであり、それは媒介的に彼らに受験生のあり方を伝えているのです。

 アウラの教室におけるこの学年を超えた関係性は、たいていコトバを介さない形で成立しています。先輩が後輩を具体的な形で指導するのではなく、後輩が先輩たちの姿を盗み見していくかのような形で、何かが伝わっていくのです。このような関係性を私たちは、〈徒弟的関係〉と呼んでいます。

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